第65章 不行跡
そこからほんの数分後。
知らない通りを抜ければ、突然見知った場所に出てきて。
「この時間はこちらを通った方が近いので」
驚いている私に気がついたのか、そう説明する彼に視線を向けた。
楽しそう、とも見える彼の表情に複雑さを感じながら。
「此処で待っていてください。僕の趣味になりますが、選んできますので」
適当に会場近くの駐車場に駐車すると、そう告げながら彼は一人で車を降りようとして。
「こ、困ります・・・っ」
「その格好で出歩かれると、僕が困りますので」
ここで一人にされるのも、彼に服を用意してもらうのも。
そう思って沖矢さんを呼び止めるが彼は気にもとめず、足早にその場を去ってどこかに消えてしまった。
「・・・・・・」
私が逃げる、とは思わなかったんだろうか。
勿論、その選択肢は考えた。
けど、この通りでは彼のジャケットで隠しながらでないと歩く事はほぼ不可能に近い。
でもこれを持って帰る訳にもいかない。
ただどうする事もできないまま結局彼の言葉に従って、その場にいる他無かった。
何度目かの深いため息を吐いていると、紙袋を手にした沖矢さんが戻ってきて。
「とりあえず、これに着替えてください」
手にした紙袋を差し出しながら車に乗り込むと、後部座席の方を指差して。
「こ、ここでですか・・・?」
「目隠しはつけますので」
そう言ってダッシュボードから取り付け用のカーテンを取り出すと、窓に手早く装着していった。
「外で着替える場所を探すよりは良いかと」
確かに、彼の言う通りではあった。
正直気は引けたが、四の五の言えた状況では無い。
後部座席に移ると、紙袋に入っていたスカートを手にして。
あまり着たことの無い、赤いスカート。
色んな意味で躊躇う要素はあったが、手早く着替えを済ませると、即座に車を降りた。