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【安室夢】恋愛ミルクティー【名探偵コナン】

第65章 不行跡




「とりあえずこれを。近くに車を持ってきますから、路地の入口まで戻っておいて頂けますか」
「あ、あの・・・っ」

一方的にそう言うなりジャケットを押し付けられ、何も言い返す間も与えられないまま、彼は私が来た道を戻って行った。

暫くその状況に唖然とした後、少しだけ我に返って。

何が、したいんだろう。
それは彼に対しても、自分に対しても思う疑問で。

とにかく今は彼の指示に大人しく従い、押し付けられたジャケットで適当に裂けた部分を隠し、既に姿の無い彼の後を追うように路地裏を抜けた。

「こっちです」

少し大きめの通りに戻ったその時、どこからともなく沖矢さんの声が聞こえてきて。
そちらへ視線を向けると沖矢さんの姿と共に、体の向く先には彼の車が停車していた。

明確な指示は無いものの、乗れということなんだろう。

躊躇いはあるが、迷っている場合でも無い。
一度行かないと決めた割には、まだ諦めていない自分もいて。

少しでも零に情報が持ち帰れたら。
そう思いながら、車に乗り込んだ。

「会場の近くにお店がありますので、まずはそこへ」

言いながら彼は早々と車を出発させて。
ただ、この時間は交通量も多くなってくる。

「ま、間に合うんですか・・・」

不安を含んだ声色で問えば、いつもの不敵な笑みが彼に戻って。
それに対して彼らしいと思うと同時に、やはりどこか恐怖心に似た感情も覚えた。

「ご心配無く」

特に急ぐ様子もないまま車を進められるが、やはりそこには不安しかなくて。

最悪、間に合わなくても良い。
何なら、間に合わない方が良い。

でも彼はその、波土禄道というミュージシャンについて調べたいのだろうから。
何が目的で、何を理由としているのかは知らないが。

「・・・あ、の・・・」
「大丈夫です」

何も言っていないのに。
それはあっさりと切り捨てられてしまった。

明らかに道が反対方向な気がする。
そう思って彼に問いかけようとしたのに。

それ以上は問うことを許されないような空気を感じた気がして。



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