第9章 仮の姿
【※安室視点 回想※】
彼女と初めて話したのはポアロでバイト中のことだった。
休憩を終えて店内に戻ると、コナンくんが女性を連れてきているのを見えて。また厄介事に巻き込まれているのかと思い近付いた。
メニューを見ても目は動いておらず、注文は最初に目に付いたものを適当にした、といった感じだった。
注文された飲み物を入れて、コナンくんと彼女の元へと運ぶ。それまでにある程度の話はこっそりと聞いていた。
「お待たせしました。アイスコーヒーとミルクティーです」
コナンくんと向かい合わせに座る彼女はどこかで見たことがあるような気がして。
色白で、肩辺りまで伸びた栗色の髪。必死に思い出すが、その時は思い当たらず。
「ありがとうございます、いただきます」
そう言って彼女はミルクティーに口をつけるなり、美味しいと呟いて泣き始めた。
それを見て慌て始めるコナンくんに、こういうところは子どもなんだな、と思いながらポケットにしまっていたハンカチを彼女に手渡す。
「良かったら使ってください」
「・・・ありがとうございます」
ハンカチを受け取る彼女の涙は止まるどころかどんどんと溢れてきて。
その彼女の姿から何故か目が離せなかった。
「よろしければ僕にもさっきの話の続き、聞かせてくれませんか?」
普段なら仕事に関係ない厄介事には自分から突っ込まないようにしているが、コナンくんが関わる以上何かありそうな気がした。
笑顔で彼女にお願いするが、突然のことで戸惑っているようだった。
「大丈夫だよ。この人、実は毛利のおじさんの弟子なんだ」
コナンくんのその言葉で少しは心を開いてくれたようで。彼の言葉には小学生とは思えない不思議な説得力があった。少なからず、彼女にもそうなのだろう。
「安室透といいます」
笑顔で、いつものように人当たり良く。
そう心がけて彼女に名乗った。
それは本当の僕の名前ではないけれど。
「如月ひなたです」
彼女はそう言って頭を下げた。やはりどこかで見たことがある。
再度そう確認した。