第65章 不行跡
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あれから約一週間。
事務所の手伝いをしたり、彼の居る時はポアロに向かったりと、今までの事が嘘のように平和な日々を過ごした。
ただ、これからどうするべきか、という考えには答えが全く出せなくて。
組織の人間から完全に逃れた訳ではないはずだ。
いつか・・・またベルモットのように、接触される機会も無いとは言えない。
そうなってしまった時、やはり私が取るべき行動は・・・。
「・・・ひなた?」
「え・・・?あ、ごめん・・・何?」
その日の夕食を済ませて食器を片付ける最中だったのを思い出し、ボーッとしていた自分の意識を戻して。
「聞いてなかったのか?」
「・・・ごめん」
何の話をしていたかも思い出せず、申し訳なさから目を伏せると彼の手が頭に置かれた。
「謝るなって。最近忙しかったからな、疲れてるんだろ」
自分ではそんなつもり無いけれど。
今はそういう事にしておこうと、今までの考えを心の奥底に隠した。
「さっきも言ったが、明日から少し忙しくなる。暫くはここにも戻れないと思う。・・・不安なら、公安の人間を外に・・・」
「だ、大丈夫・・・!公安の人達に迷惑は掛けられないし、外に出ることもあまり無いだろうから」
少し不安そうで不服そうな表情を浮かべつつも、私がこれ以上引かないことを悟ったのか、小さく溜息を吐きながら私の体を引き寄せた。
優しく抱きしめられると、彼の鼓動がゆっくり伝わってきて。
「・・・早めに終わらせて帰ってくるから」
「うん・・・待ってる」
寂しくないと言えば嘘になるけど、彼には心配も迷惑も掛けたく無いから。
抱きしめ返せば、自分の鼓動が速まっていくのを痛いほど感じた。
「僕が居ない間のポアロは、念の為休んでくれ」
「分かってる」
そこだけは何故か譲らなくて。
数日前も梓さんと二人で入ることを止められたばかりだ。
そこまでする理由も分からなかったが、彼が言うのならと、今は黙って従う事としている。