第64章 戒めて※
「・・・っ、く・・・」
彼の喉の奥でつかえる声が出ることは無くて。
それでも、彼の吐息は甘さが足されていくのが分かった。
互いの乱れる息は、胸焼けを起こしそうなくらいに甘ったる過ぎて。
きっと、挿入時に痛みがあったのだろうけど、それすら忘れてしまうくらいに、その甘さに飲み込まれていた。
「ん・・・やあぁ・・・ッ!!」
一段と強く体を跳ねさせれば、彼の口角が上がった気がして。
どうやら、僅かに感じた嫌な予感は、的中してしまうことまでがセットのようだ。
「ここ、か・・・っ」
そう言って強く突き上げられれば、再び悲鳴のような声を上げてしまって。
何度も何度も、的確に狙われて。
力を入れるなという忠告なんて、思い出せる状況でも無く。
ただ快楽に身を任せ、喘ぐだけ。
「や・・・零・・・っ、も・・・!!」
また、呆気なく来てしまう。
彼を感じるのが久しぶりだからか、その感覚はいつも以上に短くて。
「・・・は・・・っ」
彼の呼吸が断片的になり、動きが早くなっていくのに気付けば、同じく果てが近いのだと悟った。
「ひなた・・・っ」
私が彼の名を呼んだ時、そんな声で呼ぶなと言われた意味が今やっと分かった気がした。
その艶めかしい声は、この気持ちを煽るには十分過ぎて。
「あ・・・っ、れ・・・ぃ・・・あぁ・・・!!」
「・・・ッ」
もっと強く、もっと早く、そして的確に。
そしてまた、あの感覚に、陥ってしまう。
「ん、や・・・あぁあぁぁ・・・ッ!!!」
今度は、二人同時に。
真っ白になり切った意識と体は、もう何も動かすことができなくて。
放心状態のまま数十秒、もういつ意識を手放したっておかしくない状況の中、彼のモノはズルッと引き出された。
目を瞑れば幸せに浸ったまま夢の中へ行けそうで。
糸が切れたように意識を手放しかけたその瞬間、何故かまた腟内が埋まる感覚に、遠のいていた意識は直ぐに戻ってきた。
「零・・・っ!」
「一度で終わる気じゃ・・・ないよな?」
耳を疑うような言葉に目を丸くすれば、彼の口角が上がるのを再び見てしまって。
「待って、零・・・っ」
「待たない」
・・・その時やっと、彼の言葉を真に受けなかった自分に後悔したのは、次の日の朝の事だった。