第64章 戒めて※
「それと、その体勢は傷に響く。あまりしない方が良い」
そう言いながら体を転がされて。
再び彼の腕の中に収まると、自然と本音が口から零れてきた。
「・・・零、最近傷を気にし過ぎだと思う・・・」
気にかけてくれる事は嬉しいし、気にする理由も分かる。
けれど、それは少し過剰にも思えて。
「気にもするさ」
彼の腕の力が込められる。
同じように、心臓も締め付けられたようで。
「・・・恋人だからな」
それ以上の理由が隠されていそうだが、深く追求することができなくて。
彼の重荷になりたくないのに。
私がいるだけでそうなってしまう。
どうすれば、もっと力ある存在になれるだろう。
答えは出ない上に、空回りするばかりで。
「昨日の続きをしないのも、傷のせい・・・?」
別にそれだけを求めている訳じゃないが、彼だって辛かったはずだ。
それに、最後が沖矢さんで終わったままでは・・・胸がざわついて落ち着かない。
これに関しては自業自得なのに。
「そう、だな」
少し歯切れの悪い言葉を聞けば、ここにもまだ理由は隠れていそうで。
でもやっぱり、追求することはできなかった。
「・・・治らないと、ダメ?」
顔を上げて彼に視線を向ければ、彼も視線をこちらへ向けて。
「また傷んだら・・・」
「痛いくらいでいいの・・・っ」
貴方の心が傷んでいる間、私は別の人で何かを無かった事にしようとした。
一瞬でも、再び貴方を忘れようとした。
何をしても許されることでは無いし、許してもらおうとはしていない。
これがただの自己満足だということも分かっているけど。
「でも、零が嫌なら・・・我慢する」
彼はズルいと散々言ってきたけど。
私も十分ズルい。
「・・・嫌な訳、ないだろ」
潰されそうなくらい抱きしめられると、息が苦しくなって。
「ひなたがずっと傍に居て、僕がどれだけ我慢していたと思う」
その言葉が聞こえた直後、いつの間にか互いの唇同士は触れ合っていて。
絡み合う舌から漏れる音と、互いのくぐもった声が、耳を刺激しては彼を求める気持ちを膨らませた。