第64章 戒めて※
「今は降谷零だ」
その言葉で、二度目のキスの意味を知って。
やっぱり彼はズルいことを思い知らされた。
「・・・心臓、もたない・・・」
「ひなたが気を付ければ良いだけだ」
軽く笑いを含みながらそう言われ、彼は運転席へと座り直して。
さっきまでの不安や気持ちが僅かに和らいだように感じる中、それは全て彼がきっかけだと気付けば、この上なく滑稽だと自分で嘲笑った。
ーーー
「・・・ひなた」
「何・・・?」
その日の夜、いつものように身を寄せ合って眠りにつこうとした時、突然声を掛けられて。
「・・・いや、何でもない」
かなり間を開けてからそう返事をされるが、それに納得できるはずもなく。
「駄目、言って」
何かが言いたかったのは確かなんだろうから。
いつもとは逆に、彼を上から見下ろすように手をついて問いただした。
「本当に何でも無い。ただ、名前を呼びたかっただけだ」
納得はできなかったが、それが全て嘘には聞こえなくて。
でも、それに理解ができたとも言えなかった。
「どうして・・・?」
素直に問い直せば、いつものように彼の手が頬を滑って。
「・・・みんなが、ひなたの名前を呼ぶから」
僅かに下がったトーンと声量。
言葉を含めた、それらから察するにそれは。
「また嫉妬・・・?」
「また、って何だ」
ほんの少し怒ったように言われるが、その怒りには子供っぽさも感じて。
・・・降谷零には、安室透の時と比べて少しだけ冷静さというものが欠けている気がする。
それが彼らしさでもあり、愛おしい部分でもあるけど。
「風見さんの時もそうだったな、って」
「風見の時とは少し違うがな」
それは分からないでも無い。
私も、彼目当ての女子高生に、そういう感情を少なからず抱いてはいるから。
それが知り合いで特定の誰かとなれば、少し違ってくる。
互いに好きだということは分かっているのに。
どうしてそういう感情は生まれてしまうのだろうか。
・・・いや、互いに好きだから・・・なのか。