第64章 戒めて※
「ひなたさん、ハムサンドできましたよ」
「は、はい・・・!」
うっかりボーッと立ち尽くしてしまっていて。
透さんからの声掛けで我に返った。
今は仕事に集中しなくては、と軽く頬を抓り、気合いを入れ直して。
なるべく仕事以外の事は何も考えないように、体を動かし続けた。
ーーー
「お疲れ様です、帰りましょうか」
「はい」
閉店作業やポアロの施錠をし終え、駐車場まで二人で歩いた。
少し前を歩く彼を横目に、冷たい空気が頬を撫でて。
今、彼はどっちなのか。
透さんだとあんなに話せたのに。
零だと何故か会話が怖くなっていて。
彼の表情を確認することも恐れている自分がいる。
その理由も分からないまま、駐車場に着いて。
車に乗り込んでシートベルトを締めかけた瞬間、その手は彼に掴まれて静止を余儀なくされた。
「・・・れ、い?」
目付きが、そうだと思ったから。
色々確認するようにその名前を呼べば、私の手を掴んでいた彼の手は素早く後頭部へと回り、そのまま彼の方へと引き寄せられた。
「ん・・・っ!」
突然のことで思考が追いつかないが、彼が安室透でない事は確かなようで。
絡む舌に意識が奪われる中、押し倒されるように助手席のシートに押し付けられると、服を勢いよく捲り上げられた。
「れ・・・っんぅ・・・!」
僅かに開いた隙間から名前を呼びかけるが、すぐに蓋をされて。
一瞬、こんなところで何をするのかと不安が過ぎったが、傷口のある方だけを脱がしているのを感じ取れば、その行動の意図が何となく読めてきた。
「・・・大丈夫そう、だな」
唇が離れると、どこからか取り出してきたペンライトで傷口を素早く確認し、中途半端に脱がした私の服を再び着せ始めた。
「私の言葉だけでは・・・不十分でしたか・・・?」
信じてもらえなかったんだ、という気持ちからでは無く、完全に心配を取り除くことはできなかったんだろうか、という不安から出た質問で。
しかしその言葉の直後、何故かその口はまた彼によって塞がれることになった。