第64章 戒めて※
「またいつでも連れて来るから」
指の背で頬を撫でながら、宥めるように言われた。
それは嬉しいこと、ではあるけれど。
私が言いたいのはそういう事ではなくて。
・・・きっと彼も、分かってはいるはず。
「いくぞ」
それ以上は何も言わないまま私の肩に手を回し、優しく玄関へと誘導された。
疼いていた体は嘘のように静まったけれど、代わりに痛みだけが鋭さを増していく。
撃たれた直後のように熱く、焼け付くような痛み。
「・・・嫌かもしれないが、少し我慢していてくれ」
なんとか玄関で靴を履いて外へ出ようとすると、いきなり彼がそう断りを入れてきて。
何の事かと視線を向けながら小首を傾げると、後ろ首と膝裏に彼の腕が回り、そのまま軽々と横抱きに持ち上げられた。
「れ・・・っ」
「一人にする訳にも、歩かせる訳にもいかない。恥ずかしければ、寝たフリでもしていてくれ」
そうしていても恥ずかしいものは恥ずかしいけれど。
ここで私が何かを言っても彼の迷惑になるだけだ。
そう思って、今は彼の言葉に従う事とした。
ーーー
「・・・起きたか」
「零・・・?」
目を開けばそこは、事務所の二階にあるベッドの中で。
いつの間に、ここへ帰って来ていたのだろうか。
いや、そもそも・・・いつ眠ってしまったんだろう。
「まだ起きない方が良い。軽く起こして薬は飲ませたが、動けば悪化するかもしれない」
言われても思い出せない記憶を辿りながら体を起こしかけると、こちらに向かってくる零に、その行動を止められた。
「・・・痛むか?」
目の前まで来ると、切ない笑顔で尋ねられて。
私がどうであれ、彼は私が返す言葉を知ってるはずなのに。
「大丈夫・・・」
きっと彼の予想通りの言葉を返せば、その笑顔は切なさを増した。
肩の傷は痛み止めが効いたせいか、痛むことは無いのに。
代わりに心は、こんなにも痛い。