第63章 再出発
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「あの、一つ聞いて良いですか?」
「どうした?」
お昼を食べ終え、二人で食器を片付けながら話を切り出した。
本当はこのままにしておいた方が良いのかもしれないけれど・・・でも、あの時はきちんと話ができていなかったから。
「零は・・・その・・・怒っていないんですか?」
何を、とは言わないものの、零はきっと何か把握できているはずで。
だからこそ明確に口にするのが、怖かった。
沖矢さんの、名前を。
「・・・怒っていない、と言えば・・・嘘になるかもな」
そんなのは当たり前で。
故に、彼にはその怒りというものを押し殺してほしくなかった。
「でも、僕にはひなたを責める理由も無いから」
「そんなことない・・・っ」
色んなことに理由をつけて彼を裏切ったのは私だから。彼が責任を感じる必要も、怒りを無理に抑える必要も無い。
「怒っているなら・・・嫌だと思ったなら、遠慮なんてせずに言ってほしいです・・・」
そんなの、私が偉そうに言えた立場ではないのだけれど。
それでも明確な関係が生まれた以上、互いに蟠りなんて残したくは無いから。
「一筋縄では、この怒りは収められないぞ」
口元は笑っている。
でも、彼の目には何も写っていないように、どこを見ているのか分からなくて。
「覚悟はしてます」
何を言われても、何をされても。
それはある意味ズルい言葉でもあるのかもしれない。
彼は酷いことを言ったりしたりする人ではないと、分かっているから。
「・・・じゃあ、僕の言うことを一つ聞いてくれたら、この件は互いに気にしないことにする。それでどうだ?」
「分かりました」
何だって受け入れる。
そう思う脳裏で、なんてズルい人間なんだと、もう一人の自分が言った。
ある意味、彼の優しさに漬け込んでいるようだ。
だから彼からの罰はこれで受けるとしても・・・この罪は自分自身で償うしかないのだと改めて思い直した。