第8章 敵対心
「ただの通りすがりの者ですよ。具合が悪そうにここへ座り込んでいたので、家まで送ろうとしていたところです」
そう答える沖矢さんの言葉は確かに嘘はついていないが。
あくまでも初対面ということを貫き通すことは、彼の言葉で察した。
「・・・その割には仲が良さそうですね」
疑うように、試すように安室さんが言い放った。
何か誤解されているのだろうか。そう思うと何故か少しだけ悲しくて。
「そう見えますか?」
挑発するような笑顔で沖矢さんが安室さんに返す。大丈夫なのだろうか、とこちらの方がヒヤヒヤして。
恐る恐る安室さんを見ると、沖矢さんを少なからず睨んでいるようで。それを見て再び背筋が凍るようだった。
「彼女、僕の知り合いなんです。僕が家まで送り届けます」
「そうですか、ではよろしくお願いします」
そう言って、安室さんが私に手を差し出す。心臓が跳ねたような気もするが、その感情には蓋をして差し出された手を取ろうと腕を伸ばす。
安室さんは今、どういう感情を抱いているのだろう。
そんなことを思いながら差し出された手にそっと触れて。
ああ、やっぱり心臓がうるさい。落ち着かない。
いつも少しだけ冷たい彼の手。少し触れただけだが、今日もいつも通りで。
「・・・・・・っ」
力の入らない足に頼ることはできないため、腕の力だけで安室さんの元へ行こうとするが、上手くいかずもたついてしまう。
下手に動けばまた転倒しかねない。
そう思って慎重に動いていると、もどかしさを感じたのか安室さんに軽々と横抱きにされた。
「あ、安室さ・・・!」
「こっちの方が早いです」
それはそうだろうけども。それでもあの時と違ってここは屋外で。しかも沖矢さんの前だ。
少なからず私にだって羞恥心というものはある。
「おや、そういう間柄だったんですか?」
楽しそうに沖矢さんが尋ねてきて。
・・・知ってるくせに。
「ええ、まあ」
耳を疑って安室さんに視線を向ける。さっきの沖矢さんの言葉に対して・・・肯定の言葉?
それは沖矢さんを面倒だと思ってあしらうための返事だったのか、はたまた別の意味だったのか。
彼の優しいとは違う笑顔の意味が私には分からなかった。