第8章 敵対心
「おっと」
反射的に沖矢さんへしがみつくように彼の服を掴んだ。それを瞬時に受け止めてくれて、しっかりと支えてくれる。
「す、すみません・・・っ」
慌てて離れようと沖矢さんの体を突き放すように手で押すと、再度倒れそうになる。それをまた彼が受け止めてくれて。
「無茶しないでください」
「・・・すみません」
二度手間で迷惑をかけてしまった。申し訳なさでいっぱいになりながら、支えてくれる彼の腕を必死に掴む。
「家はこの辺りですか?送りますよ」
「あ・・・でも・・・」
「大丈夫ですよ、秘密は守りますから」
住所のことを言っているのだろうか。それはコナンくんの知り合いだから心配はしていないけども。
「・・・すみません、お願いしてもよろしいですか」
「ええ、喜んで」
安室さんとは違う、ミステリアスな笑顔を見せた。
本当はなるべくこの人とは関わりたくなかったが、今はそうも言ってられない。手早く送ってもらうことを決意した。
「一応車を動かしますので、一旦乗って頂けますか」
「あ、はい」
そう言って車の方へゆっくり歩きだそうとしたところに、一台の車が少離れた場所へ止まる。ふと、それへ視線を向けて目を見開いた。
「・・・安室、さん・・・」
それは彼の車で。小さく彼の名前を呟いたのを聞いて、沖矢さんも私の視線を追った。
ここで会うのはまずいのでは、とも思ったがもうどうすることもできないこの状況に背筋が凍った。
車から降りてこちらへ走ってくる姿を見ては、改めて彼の存在を確認する。
今、私は沖矢さんへほぼ体を預けているような形になっていて。この手を離せばまた座り込んでしまう。彼の腕を掴むこの手を離すことはできなくて。
この状況をどう説明して良いか必死に考えるがこれといった解決策が思い当たらず、ただただ冷や汗が頬をつたった。
「ひなたさん・・・!?」
心配そうに駆け寄ってきた彼は沖矢さんに視線を向けた。それを追うように私も沖矢さんを見上げる。
彼はじっと安室さんを見ていて。
「・・・こちらの方は?」
どこか怖い声で安室さんが尋ねた言葉を聞き、ざわざわとした気持ちが底から湧き上がってきて。
安室さんの顔を見るのが・・・ただただ怖かった。