第1章 出会い
それを聞いた安室さんは何かを考えるように、軽く握った右手を口元へ当て、少し笑顔を消した。
「お兄さんがいなくなる頃、何か変わったこととかなかった?ちょっとしたことでもいいんだけど」
真剣な眼差しでコナンくんが尋ねて。
どうして彼がこうも私の話を真面目に聞いているのか分からなかったが、なぜか彼には信頼して話ができる気がした。
「特には・・・」
でも、彼からの質問に期待されたような返答はできなくて。
実際、いなくなったのも連絡が取れなくなったのも突然のことだった上に、そこまで頻繁に連絡を取っていた訳でもない。
返事をした後も記憶を絞り出すように考えたが、やはり思い当たる節はなかった。
「では、彼について何でもいいので教えてください」
今度は安室さんから、そう言われて。
どこからどこまで話したら良いのか戸惑ったが、頭の中で兄の姿を思い出しながら、そっと瞼を閉じた。
「名前は、本田冬真(ほんだとうま)。歳は私より3つ上の29歳。運動が得意で、とにかく明るい人でした」
小さい頃、運動が苦手な私の練習にいつも付き合ってくれて。
上手くできないとすぐ泣いてしまう私を、いつも笑顔で励ましてくれて。
何度も、大丈夫と言ってくれた。
思い出すと、せっかく収まっていた涙がまた溢れてきそうで。
涙を堪えながら、思い出される記憶をゆっくり辿った。
「あとはミステリー小説が好きだったり・・・車も好きだったみたいです」
「ミステリーが好きなのは僕と一緒だね」
泣きそうな私を見てか、励ますようにコナンくんが教えてくれて。
それに応えるように私も小さく笑顔を作った。
だから私の話に興味があったのだろうか。
そう思いつつも、彼が期待するような話ではなかったかもしれない、とも思って。
「因みに、どんな車が好きだったんですか?」
「えっと・・・ポルシェが好きだったんだと思います。街で見かけたら教えてくれといつも言われていたので、見かけたらメールをしてました」
おかげで、車に興味はなかったもののポルシェだけは詳しくなった。
残念ながら好きにはなれなかったが。