第1章 出会い
「よろしければ僕にもさっきの話の続き、聞かせてくれませんか?」
その店員は、崩さない笑顔を向けながら問いかけた。
どうしてこの建物にいる人達は、私の話を聞きたがるのだろう。
一人は少年、そしてもう一人は喫茶店の店員。コナンくんはともかく、ただの店員さんへ話す理由はどこを探しても見つけられなくて。
「大丈夫だよ。この人、実は毛利のおじさんの弟子なんだ」
返事に困って戸惑った様子を見てか、コナンくんが説得するようにそう話してくれた。
・・・弟子?
探偵業にもそういう制度があるのか、と再び彼に視線を向けながら、話しても大丈夫な理由を見つけたことにどこか安心した。
どうやら今までの話は聞かれてしまっているようだし。
「安室透、といいます」
店員がそう名前を告げて。
その瞬間、この名前をどこかで耳にしたことがあるような気がした。
でも、思い当たる記憶は無い上、あまり聞いたことのない苗字でもあった為、気のせいかと自己解決した。
「如月ひなたです」
軽く頭を下げながらこちらも自己紹介をしていると、溢れていた涙も少しは落ち着きを見せていた。
「ところで、先程の話の続きですが・・・警察への相談を止められていたとはどういうことですか?」
安室さんはテーブル横へ立ったまま、自然に話を戻した。
「それが・・・私もよく分からないんです」
いつも彼は言っていた。
もし自分がいなくなることがあっても、警察へは言うな。
必ず帰るからただ待っていてくれ、と。
「・・・警察に後ろめたいことしてたってことはないよね?」
「それはない・・・!」
恐る恐るといった様子で尋ねたコナンくんに、またしても大人気なく、大きな声で言い返してしまった。
「ご、ごめんなさい・・・」
我に返り、小さく俯き視線を落としながら謝って。
「警察官の知り合いがいたみたいだし、何より彼は・・・そういう人間じゃない」
「警察官の知り合い?」
安室さんが、興味を持った目で私を見つめた。
「その人達と一緒にトレーニングをしている、という話を聞いたことがあったので。だから最初はその友人に心配をかけたくなくて、相談するなと言っていたのかと・・・」
でも、いつか自分がいなくなることが分かっているような彼の言い方は、いつもどこか引っかかっていた。