第63章 再出発
「ひなた」
「哀れだったから・・・近付いたんですか・・・?」
寂しそうな女だと、思われたから。
・・・違う。
零はそんな人じゃない。
分かってる。
分かってるのに・・・気持ちと裏腹な言葉ばかり吐き出されていく。
「これも・・・兄のためですか・・・?」
「・・・#NAME#」
腕の力が更に強められて。
それに押し出されたように、涙が溢れた。
「私は、零の・・・何ですか・・・?」
やめて、そんな事が聞きたいんじゃない。
彼は・・・いつだって・・・。
「・・・ッ・・・!」
抱き締められていた腕は解かれ、その手は私の肩に掛けられていて。
気付けば体を突き放すように腕を伸ばして、距離を取られていた。
「ひなた」
「・・・っ」
表情は確認できない。
けれど、その声はどこか冷ややかなもので。
背筋にゾクッと悪寒が走った。
「ひなたは僕の大切な人で、失いたくない人で・・・恋人だ」
少し顔を上げた彼の目は、さっきよりも揺らめいているように見えた。
その綺麗な目から、視線が逸らせなくて。
「ごめん・・・な、さ・・・ッ」
やっと、自分の意思で言葉が出せた。
彼を傷付けたんじゃないか。
嫌われてしまったんじゃないか。
最低な奴だと・・・思われたんじゃないか。
そんな心配ばかり、浮かんできて。
「僕こそ、ずっと話せなくて・・・すまなかった」
話せる訳ない。
あの時の私は何も知らなかったのだから。
私だって、零と同じ状況だったら・・・。
言えなかったかもしれない、誤魔化していたかもしれない、嘘を伝えていたかもしれない。
けれど彼はこうやって・・・真実を話してくれた。
「・・・零・・・っ」
彼の腕の中をすり抜け、そのまま胸に飛び込んだ。
優しく受け止めてくれた彼は再び強く抱き締めてくれて。
その温かさに包まれながら、声を上げて泣いた。