第63章 再出発
「・・・ここでなら、話せる気がしたんだ」
「?」
兄のお墓を見つめる私に、零がそう声を掛けた。
「・・・覚悟は・・・良いか?」
真っ直ぐ私を見据える彼の目も海と同じように、どこか揺らいでいる気がして。
その言葉は、彼自身にも言い聞かせているようだった。
「大丈夫・・・です」
頬を伝ったそれを手で拭いながら、返事をして立ち上がった。
本当は少し、怖い。
真実を知ってしまった自分がどうなってしまうのか。
でも、私もここでなら、受け止められる気がした。
「結論から言うが・・・彼は・・・」
険しい表情のまま兄のお墓に背を向け、海に視線を向けながら続けた。
「ひなたの母親を射殺後・・・自決したんだ」
「・・・・・・ッ」
兄が・・・母を?
「でも、あれは事故だった」
「事故・・・」
繋がるはずのない二人が出会い、それが互いに陥れる関係になってしまったなんて。
目の前が真っ暗になるとは・・・こういう事なのか。
「組織に潜入していた彼は、使っていた小屋に忍び込んでいたFBIの連中に気が付いた」
・・・私が撃たれた、あの小屋。
そういえばあそこは兄の最期の場所だとも言っていた。
「彼はそれが組織の連中だと思い込み、自分や他の潜入捜査官が公安だとバレるのを恐れた。そしてある日小屋で鉢合わせた時、咄嗟の判断で・・・逃げるFBIに銃を向けた」
話す彼の目はただ真っ直ぐどこかを見つめていて。
今まであんなに話す事を躊躇っていたのに。
彼にとって今回の覚悟というものは・・・相当なものだと感じた。
「思わず撃った弾は、近くで待機していたひなたの母親が飛び出して・・・その体で受け止めた」
・・・なんて意地悪な世界。
そう思っても、もう遅いのに。
私の母も・・・私と同じような状況の中で、死んでいったのか。
でも、私は生きている。
どれほど自分の運が良いか、今やっと分かった気がした。