第8章 敵対心
こっそり運転する安室さんの横顔に目をやる。
たまに通る街灯の明かりが安室さんの顔を照らし出す。それは難しい顔で何か考え事をしているようにも見えた。
「そろそろ着きますよ」
そう言われて外に目をやるといつの間にか見慣れた景色があって。やっぱりここが落ち着くことを再確認する。
安室さんに言われて数分、自宅近くのいつもの場所に車を止めた。
「ありがとう・・・ございました」
今日のドライブほど心地の悪いものはなかった。そう思いながらドアハンドルに手をかける。
「行動の報告は必ずお願いします」
「・・・分かりました」
そう言い残して降りた。車の横に立ち、一礼すると安室さんがいつもの笑顔を向けて走り去っていった。
その瞬間、急に足の力が抜けてペタンとその場に座り込んでしまった。
「あ、あれ・・・っ」
足に力が全く入らない。気が抜けてしまったのだろうか。人通りは殆どない場所だが、誰かに見られる前に早く立たないと、と思えば思うほど力の入れ方が分からなくなる。
「・・・・・・はぁ・・・」
もうため息をつくしかなくて。
最近何度もくる情けなさを再び感じ、空を見上げる。星も月もない真っ暗な夜。私の心の中みたいで。
悠長にぼんやりそんなことを考えていると、1台の車のライトが遠くから見える。
しまった。まだ力が入らない・・・。
必死に壁と腕の力を使って立ち上がろうとする。
それでも車が通り過ぎる頃までには間に合わなくて。壁に寄りかかる形で崩れ落ちた。
見て見ぬフリをしてくれれば。
そう強く願ったが、その思いは届かず。近付いてきた車は、先程まで安室さんの車があった場所へ停車した。
「どうかされました?」
車の主は窓を開けて車内から顔を覗かせた。
その声は聞き覚えのあるもので。
「お、沖矢さん・・・?」
こんな時間にこんな所で。どうして彼が。
「たまたまドライブをしていたんですが、遠くから見知った顔が見えたもので」
そう言いながら車から降りて。この暗い中?と疑問を持つ中、私の傍へ来て片膝をつき手を差し出してくる。
「大丈夫ですか」
「あ、ありがとう・・・ございます」
戸惑いながらも彼の手に自分の手を重ねる。そのままグイッと持ち上げられる形で立ち上がる。
それでも上手く足に力が入らず、彼の方へ足から崩れるように倒れた。