第62章 願い事
「そういえば、どうしてコナンくんに送らせたりしたんですか・・・?」
零がここに居るなら、迎えにだって来られたはずなのに。
「・・・怖かったのかもしれない」
「え?」
怖かった・・・?
「迎えに行って、ひなたに帰らないと言われるのが」
「そんなこと・・・っ」
無い、と言い切りたかったが、それは私が今までに起こした行動が全てを物語っている。
何度も彼を裏切ってしまうような行為をしておきながら、自信を持って言っても説得力の欠片も無い。
「・・・すみません」
「もう謝るのは無しだ」
申し訳無さそうに微笑む彼に、さっきとは違う心臓の痛さを感じて。
「もう、本当に離してやらないからな」
そう言って頬を滑る彼の指が温かく感じたのは気のせいだろうか。
「はい・・・」
小さく返事をしたのを最後に、言葉無く体を触れ合わせた。
掛けられる言葉は無いものの、妙に肩の怪我は気にするように。
寧ろ痛いくらいの方が、少しは罪悪感を感じなくて済むのに。
脳裏でそう考えながら、彼に包まれながらその日を過ごした。
ーーー
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫です、心配し過ぎですよ」
次の日の朝、ポアロに向かうと言う彼について行くと話せば、何度も怪我の心配をされて。
そんな彼に嬉しさや恥ずかしさを感じながら朝の支度を進めた。
「零が守ってくれるんですよね」
我ながらこういう言い方はズルいと思う。
けど、零だってズルいことは多いから。
たまには許してほしい。
「・・・相変わらず頑固だな」
笑顔で返せば、少し呆れたようにも見える笑顔を向けられた。
やっと、戻れた。
私が望んでいた生活に。
まだ整っていない事は多いけれど、今はこれで十分だ。
彼の傍に居られて、声が聞けて、触れ合えて。
これ以上望めば、また今が壊れてしまいそうな気がしたから。