第62章 願い事
「何をされた?」
・・・言わなきゃ。
自分の口から。
嘘偽り無く、真実だけを。
「・・・聞いて、零が居なくなったり・・・しませんか・・・?」
ズルい質問だということは分かってる。
けど、これ以上の不安は無いから。
「まだ、分からない」
それは聞いてみないと、という意味だろうか。
でも、彼の言う『まだ』は、何か違う意味のような気がして。
「・・・言い難いなら質問に答えてほしい」
そう言って、彼が優しく頭を撫でた。
「キスされたことは間違いないな」
一瞬でも、自分の口から言うよりは楽かもしれないと思った自分を殴りたい。
これは・・・答えは早く出るかもしれないが、互いにダメージの大きな行為だ。
「・・・はい」
それがほぼ毎日でした、なんて事は言わなくても分かる。
さっきの彼の反応が、答えだ。
「それ以上の事は?」
冷静そうに見えて、きっと彼の中は怒りと呆れでいっぱいだと思う。
・・・でも。
「・・・ごめん、なさい」
嘘はつきたくない。
「謝るな。僕の責任でもある」
どこに彼の責任があるのか。
あるのは私の罪だけだ。
その優しさのようなものは、私の心に何度も針を刺した。
「それと・・・何故まだあの男の事を名前で呼んでいる」
「・・・っ!」
そういえば。
無意識の内にまだ彼を名前で呼んでいる。
それは零の前でも。
名前で呼ぶなと、彼に関わるなと言われたのに。
零の段々と滲み出る怒りが恐怖を煽った。
でもそれは自業自得だから。
私が恐怖を感じて良い資格なんて無い。
「すみませ・・・っ」
言いかけて、その口は零の口で蓋をされた。
昴さんとの事を無かった事にするように、今までよりも一番激しく、荒々しいもので。