第62章 願い事
その日の夜までの時間は、今までより長く感じた。
この数日間より、長く。
玄関の廊下を右往左往して時間が過ぎるのをただひたすらに待った。
「!」
インターホンが鳴り響くと、即座に玄関へと目を向けて。
次の瞬間には、無意識に走り出していた。
「零・・・っ!」
勢いよく開いた扉の先に居たのは。
「・・・ごめんね」
零ではなくて。
「コナン・・・くん?」
違う名前を呼んでしまった申し訳無さを感じる中、彼もまた申し訳無さそうにこちらを見つめた。
「彼に頼んだんですよ」
背後からゆっくり近づいて来ながら、昴さんがそう話出て。
「貴女の住む事務所まで送ってほしいと」
そう説明されるが、分からないことは沢山ある。
その中でも一番の疑問は。
「どうして・・・コナンくんなんですか」
この時間帯に、子どもに送らせるなんて。
「彼が迎えに来るとは言っていませんよ。それに、この坊やはこう見えても、かなり優秀なんです」
そんな事はとっくに知っている。
そうではない。
そうではなくて。
「安室さん、ちょっと手が離せなくなったんだ。だから代わりに僕が送っていくよ」
「だ、駄目だよ・・・!」
送って行く時は良い。
でも帰りはどうするのか。
毛利探偵事務所までそう離れていないとはいえ、この暗い時間帯に子どもの一人歩きなんて。
「じゃあ、博士に送ってもらおう。それなら良い?」
「そ・・・それなら・・・」
昴さんが送ってくれれば、コナンくんや博士に迷惑をかけなくても済むのに。
そう思って視線を向けるが、彼から返されるのは、やはり読めない笑顔だけで。
「お気をつけて」
その言葉と姿を最後に、工藤邸を後にした。
そのまま阿笠邸に向かい博士に挨拶を済ませた後、事務所まで送ってもらって。
「気を付けての」
「はい、ありがとうございました」
博士もある程度の事情は知っているようで、必要以上に私に何かを聞いてくることは無かった。
博士だけでなく、コナンくんも。