第62章 願い事
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数日経った。
傷もまだ消毒は必要なものの、焼けついた部分もだいぶ良くなっていて。
あれから昴さんは、ことある事にキスをしてくるようになった。
やっぱり何故か拒みきれなくて、いつしか当たり前のようにそれを受け入れていた。
でも昴さんに好意を持っている訳では無い。
そのキスの意味は自分にも分からなくて。
そもそも意味なんて無かったのかもしれないけれど。
勿論、罪悪感は存在していた。
けれどそれ以上に・・・。
「良い情報をあげましょうか」
とある日。
いつもの部屋で昴さんの入れた紅茶を飲んでいる最中、突然彼からそう切り出された。
彼からの良い情報なんて限られている。
期待が勝手に大きく膨らんで、その勢いのまま向かいにいる彼とを隔てるテーブルに手を付き身を乗り出した。
「零に・・・会えるんですか・・・!」
やっと。
この数日は数年のように長く感じた。
いつしかその会えない期間を、昴さんで埋めるような行為までしてしまって。
会っても良いのか不安ではある。
けど、会いたい気持ちの方が何倍も大きい。
「そんな顔をされると、帰したくなくなりますね」
嬉しさに満ちた顔。
それは、好意を寄せられている彼にとってはダメージと言えるのだろうか。
「・・・すみません」
「どうして謝るのですか」
何故か、謝っていた。
私が受け入れた行動や、とった行動は、昴さんも零も、自分さえも傷付けるものだったのかもしれない。
今更そんな事を後悔しても遅いのだけれど。
「今日の夜、貴女を迎えに来る予定になっています」
ずっとずっと・・・待っていたその言葉。
何の為に待たされていたのかすら聞かされてはいないけれど、その時が来たのであればそれで良い。
「良いんですね?」
昴さんからのそれは、他人にならなくて良いのか、という質問。
確かにまだどこかで迷っている自分はいた。
けれど、その迷いはこの数日間で無くしたつもりで。
「・・・その時が来るまでは、彼が置いてくれるなら・・・零の傍に居ようと思います」
その時が、来るまでは。