第62章 願い事
朝食を済ませて部屋へと戻ると、何故か虚無感に襲われた。
またこの生活に戻ってしまった。
自分の家に帰るどころか、零の事務所にすら行けない。
何の為に生きているのか。
そんな事まで考えてしまって。
やっぱり、一人が怖い。
この大きな家に一人で居るわけではないのに。
「・・・っ」
いつもの部屋に行けば昴さんがいる。
でもそこに行けば、彼を零の代わりにしている気がして。
「・・・零」
求めるように小さく名前を呼ぶが、返事がある訳ではなく。
虚しさだけが、部屋と心を埋めた。
ーーー
「・・・?」
陽が沈みかけた頃、夕飯の手伝いをしようとキッチンへ向かうが、昴さんの姿は無くて。
いつもの部屋かと思いそこへ顔を出してみるが、同じく気配どころか居た形跡すら無い。
お風呂場やトイレも、思い当たる場所は全て見て回ったが、見つけることはできなかった。
そうなると、彼が居ると思われる場所は一つしかない。
「空いていますよ」
彼の部屋のドアをノックすると、室内からそう返事が聞こえて。
それを確認した後、覗き込むようにして部屋へと足を踏み入れた。
「どうかされましたか」
そう尋ねる昴さんは、壁を背につけ窓際で腕を組んでいて。
沈みかけている陽が背後の窓から差し込んでいるせいか、表情にいくらかの怖さが足されているような気がした。
「あ・・・いえ。夕飯の手伝いをしようとキッチンやいつもの部屋に向かったのに、姿が無かったので・・・」
「探してくれたんですね」
そう、なのだが。
彼に言われると、どこか癪に障る。
それに対して眉を顰めると、彼の笑みが深くなった気がして。
「・・・・・・?」
突然何も言わないまま、彼が手を小さく上げて手招きをした。
それに何の意味があるのか分からなかったが、小首を傾げなから黙ってそれに従い、ゆっくり彼へと足を進めた。