第61章 悪い事※
「それは失礼」
僅かに身構えている中で、帰ってきたのは彼らしい返答だった。
その返事に、何故か苦しくなって。
何て返事をしてもらいたかったんだろうか。
勝手に彼で試しておきながら、生まれてくる理不尽な思いが苦しさを増して。
「僕の質問が彼からだったら、貴女は何と返事をしていましたか?」
「・・・え?」
どこから何を読み取ったのか、昴さんが今度はそんな事を聞いてきて。
「僕の反応を気にされていたようでしたので。彼へはあまりそんな事を言った覚えがないのでしょう?」
何故昴さんがそんな分かったような事を言うのか。
まるでいつも彼が私を見張っているような口ぶりに、本当にそうなのではと思い始めていて。
「それで、彼にだったら何と?」
唖然とする私に改めて質問を重ねると、触れるだけの軽いキスを落とされた。
それは私を更に素直にさせる、魔法だったのかもしれない。
「・・・大丈夫だと・・・答えてました」
目を伏せながら、震える声でそう答えた。
「それが彼に対する嘘だと思っていませんか?」
その伏せた目は思わず彼の顔へと向けられて。
そんなに大きく顔に書いてあるだろうか。
心臓が大きく跳ね、生唾をゴクリと飲んだ瞬間、彼の体が小さくピクっと震えた気がして。
「・・・そんなに締め付けられては、こちらも我慢できませんよ」
言われて改めて気が付いた。
今、彼と、繋がっていること。
「・・・・・・ッ」
彼との会話が無意識に要らない力を逃し、気まで抜けてしまっていたが、そのことを再認識すると、締め付けてしまう感覚が自分でも分かってしまって。
「素直だったり意地悪だったり、今日は忙しいですね」
首筋から上がってくるように指が滑らされると、当たり前のように、口に蓋をされた。
絡む舌が心地よくて。
溶けてしまいそうな感覚に溺れそうで。
飲まれてはいけないと分かってはいるけど、飲まれてしまいたいと思う自分がいるのも確かだった。