第60章 天邪鬼※
「あまり動かしては治りが遅くなります。大人しく従って頂けますか」
いつもの口調、言い方なのに。
どこか普段の会話には無い威圧感を感じてしまって。
それに物怖じした訳では無いが、その言葉には従わないといけない気がした。
承知の言葉は返さないまま再び無言で彼の部屋へと向かうと、それを確認した後、昴さんもその後を着いてきて。
彼の部屋まで来ると、その前で一度立ち止まり、小さく昴さんの方へと視線を向けて。
ドアを開けられると、そのまま中へと誘導するように手を動かされた。
「・・・失礼します」
ここへ来るのは、初めてでは無いのに。
ドアの閉まる音が響いた瞬間、何故か緊張感が高まった。
「ベッドの上に座って、服を脱いで頂けますか」
言葉だけ聞くと、よからぬ事をされそうだけれど。
手当てをするだけだと自分に言い聞かし、早くなる鼓動は気付かないフリをして上着を脱いだ。
脱いだ服で下着を隠しながら、棚から救急箱を取り出す彼を待って。
「痛み止めはきちんと飲まれましたか?」
「の、飲みまし・・・た」
最早、保護者のようにすら感じる。
歳は一つしか違わないハズなのに。
「失礼します」
私の目の前で跪き、救急箱から消毒液を取り出すと、一声掛けてから手当てを始められた。
手馴れた様子の彼には疑問を覚えながらも、出際の良さには関心も覚えて。
「できましたよ」
「ありがとうございます・・・」
あっという間に巻かれた包帯も、寄れることなく綺麗に仕上がっていた。
少し癖のある巻き方だけれど、動きやすさと、きちんと固定されている感じは今まで以上だった。
「この綺麗な肌に傷が残ったのは、大変惜しいですね」
そう言いながら彼の指が鎖骨をなぞって。
思わずピクリと反応した体に、一気に熱が上がるようだった。