第60章 天邪鬼※
「・・・昴さん」
「どうしました?」
ミルクティーと化したそれが入ったカップを差し出されながら返事をされて。
「私はいつ、公安の元に戻れますか」
一応、もう戻らない覚悟もできている。
ジョディさんもその準備はしてくれているはず。
零に言えば必ず止められるだろうから。
その選択になるのであれば・・・できれば、このまま。
「戻りたい、という顔では無さそうですけどね」
そんなことは・・・。
「・・・・・・っ」
無いといえば嘘になるような気はした。
でも、心底そう思っているかと言われれば、そうでも無くて。
「心配しなくても、いずれ戻れますよ。貴女にその気があれば、ですけどね」
昴さんの言う通りだ。
明日から公安の保護に戻れ、と言われても、素直に受け入れられる自信は無い。
戻ってまた零に迷惑を掛ければ、元も子も無い。
だからこのまま、FBIの希望通り証人保護プログラムを受け入れた方が良いと、頭では分かっているのに。
心のどこかでは、まだ零と居たいとも思っていて。
悲しい程、天邪鬼で醜い考え。
その考えのせいで、自分も零も、傷付いていることは分かっているのに。
し
ーーー
その後、昴さんと二人で食事をとり、各々お風呂に入った。
零に撃たれた傷口は見た目は塞がっているものの、皮膚を貫いてしまった影響が、まだ少なからず残っていて。
火傷の痛みは引いていても、神経に響く痛みや、心に負った痛みは、まだ消えることは無かった。
「ひなたさん」
お風呂上がりに、廊下で昴さんに呼び止められて。
何か、と無言で小首を傾げると、親指で彼の借りている部屋の方向を軽く示しながら、言葉を続けられた。
「傷の手当を頼まれていますので、僕の部屋まで来て頂けますか」
「結構です、自分でできますから」
手当と言っても消毒をして包帯を変えるだけ。
そう思いながら彼の横を通り抜けようとしたが、いつものようにそれは阻まれてしまった。