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【安室夢】恋愛ミルクティー【名探偵コナン】

第60章 天邪鬼※




力の抜けた体を支えられながら、彼はゆっくりと壁に添わせ、私をその場に座らせた。

「・・・ひなた」
「零、ちゃんとご飯・・・食べてますか・・・?」

何か言いたげだった彼の言葉をかき消すように、食い気味でそう尋ねて。

少し窶れているようにも見えた彼だったが、そういうことはきっと疎かにはしないはず。

分かっているけど、今この場で当たり障りの無い会話というのが、それ以外見つけられなくて。

「・・・大丈夫だ、心配するな」

彼は何を伝えようとしているんだろう。
何の為に、今ここで私の目の前に現れたんだろう。

考えないようにしていても、出てくる疑問はそんなものばかりで。

「それよりひなた・・・」

ああ、何か言われる。

それを聞くのが怖い。

できることなら、今は聞きたくない。

せっかく貴方に会えたのに。

また暫く会えなくなるのに。

今ここで良い会話なんて、あるはずがない。

そう思った瞬間。


「と・・・透さん・・・ッ」


彼を呼んでいた。

降谷零ではなく、お付き合いをしている彼を。

私を撃った彼ではなく、ただポアロで働きながら探偵としても働く彼の名前を。


「・・・何でしょうか」


その口調は、紛うことなき安室透のもので。

降谷零を押し殺して出てきた、彼の言葉。

・・・きっと今、私はとても残酷な事をしている。

「約束、忘れていませんよね・・・?」

病院にいる間、これだけはとにかく一番考えないようにしていた事。

その約束の日はとっくに過ぎてしまったけれど。
それを交わしたのは・・・透さんだったから。

「・・・勿論です」

彼と交わしたデートの約束。
その約束は何度も果たされないまま時間だけが過ぎていて。

「・・・ちゃんと、連れて行ってくださいね」

痛みは引くどころか増していく一方で。

彼に向けているのは笑顔のつもりだけど。
それがちゃんとできているのかどうかは分からなかった。



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