第60章 天邪鬼※
確かに撃ったのは彼で、撃たれたのは私だ。
でもそれは確実な事故で。
警察官が民間人を撃ったとすれば大問題である事は、私にだって分かる。
ただ、私は・・・。
「・・・零」
声を掛けなければ、ずっとそのままでいそうな彼に小さく呼び掛けてみるが、その声は届いているのかどうかすら分からなくて。
「ごめんなさい・・・」
貴方の言葉に背いて。
貴方の傍に居なくて。
貴方を危険に晒して。
貴方に迷惑を掛けて。
「!」
急に彼が顔を上げたと思った瞬間、その顔は勢いよく再び近付いてきて。
考える間なんて無い。
気付いた時には、互いの唇が触れ合っていた。
「ん・・・っ」
零のキスとは思えない程、それは深く大胆で荒々しくて。
乱雑に舌が絡み、溶けるようなキスに、体を支える力はゆっくりと抜けていった。
「・・・んん、・・・っ!」
ガクンッと急に膝が曲がり、体を支えるものは無くなって。
思わず零に縋るように掴み、彼もそれを支えてくれた。
だが、無理に肩へ力が入ってしまったせいか、鋭く刺すような痛みが全身を駆け巡った。
「・・・ッ・・・!!」
痛みで歪む顔を見られないように、零の胸へと顔を押し付けて。
冷や汗がどっと吹き出す中、さっきまで彼と触れていた唇を噛んで、漏れ出そうな声を必死に抑えた。
今ここで彼に気付かれたら・・・また傷付けてしまうかもしれない。
それだけは、避けたかったのに。
「・・・無理するな」
彼には隠し事なんて通用しない。
バレているんだと分かった瞬間、今までの不安は何だったのかと思うくらい、吹っ切れていて。
「・・・体、預けて良いですか・・・」
「ああ」
少し乱れた呼吸の中、彼にそうお願いをして体の力を抜いた。
隠す必要が無いなら・・・そう思った途端に、私の中の思考回路は停止し、考えるという行為を一切やめてしまった。