第60章 天邪鬼※
このまま事務所に戻る事だってできた。
でもそれは、私を助けてくれたFBIの人達を裏切ることにもなる。
それだけは、やってはいけない気がして。
何より今、何故か会いたいと思っているのは・・・。
「・・・っ!?」
工藤邸への角を曲がろうとした瞬間、その体は誰かによって、細く薄暗い路地裏へと押し戻されて。
突然の事で驚き過ぎて声も出ず、ただ恐怖で目を瞑るだけだった。
「・・・ひなた」
「・・・ッ!!」
聞き覚えのある声。
聞きたかった声。
でも今、会ってはいけないと思っている人の声。
「零・・・」
ゆっくり瞼を上げると、私を覆い隠すように壁へと追いやっている彼の姿が目に飛び込んできて。
その様子は、疲れているようにも、窶れているようにも、怒っているようにも見えた。
「れ、零・・・!?」
状況を詳しく把握する間も無く、彼は急に私の服を捲り上げて。
冷たい空気が肌に触れ、身が縮むような感覚に陥りながら彼の手を止めようと掴むが、いつも以上に言うことの聞かない体と彼の力に、為す術なんて無かった。
「やめて・・・、零・・・!」
その姿に少し恐怖すら覚えた。
何も言わない彼が、何を考えているのかなんてさっぱり分からない。
「・・・・・・ッ」
何も理解できないまま露わにされたのは、彼に撃たれた右肩で。
包帯で覆われたそこを優しく撫でるように触られると、彼の表情も変化していった。
「・・・・・・零・・・?」
苦しそうで、泣きそうで、悔しそうで。
その表情を見れば、心臓が締め付けられるように息をするのが苦しくなった。
「・・・悪かった・・・」
傷口へ縋るように顔を埋めた彼に、また胸が締め付けられる思いを感じて。
彼に掛ける最適な言葉を見つけられないまま、ただ彼を小さく抱きしめる事しかできなかった。