第59章 不見識
「まあ、色々あってね」
深くは話せない・・・という事か。
潜入捜査で、とジョディさんは言っていたから、可能性としては・・・。
・・・相手が組織の人間、とか。
「そう、ですか・・・」
赤井さんはその人に、捜査とは言え特別な感情を持ったりしたのだろうか。
ジョディさんの事は、本当に好きだったのだろうか。
・・・私へ向けている感情は、本物なのだろうか。
彼の考えは誰よりも読めない。
何を考えているのか、どういう意図で話しているのか・・・全く分からない。
「シュウは貴女を守る義務があるって話していたけど・・・何かあったの?」
「え・・・?」
それは恐らく私の母が元々FBIにいて、赤井さんにそう頼んだから、だと聞いていたが。
もしかしてその母が私の母だということを・・・他の捜査官に伝えていないのだろうか?
「いえ・・・別に何もありませんよ」
昴さんにも、赤井さんにも、ほぼ同じ事を言われた。
赤井さんが私を気に掛ける理由はなんとなく分かった気がするが、それでも分からない。
・・・私へ言い寄る理由は。
ーーー
工藤邸へはそう遠い距離ではないけれど。
あの後もジョディさんがゆっくり話をしたいと、怪我を気にされつつ、車を転がしながら話を続けた。
「ごめんなさいね、変な話に付き合ってもらって」
「とんでもないです、私も楽しかったです」
女性と話す機会が減っている今、その時間はとても楽しく過ごせた。
小さくても笑えたのは久しぶりのように感じて。
零とも、こんな日が戻ってくるだろうか。
「ここでも大丈夫かしら?」
「はい、ありがとうございます」
昴さんがFBIと関わっている事を隠す為か、車は少し離れた場所に止められて。
ゆっくり車を降りると、車内から手を振るジョディさんに頭を下げた。
走り去る車を見送り、その姿が見えなくなるのを確認してから、工藤邸へと重い足を動かした。