第7章 黒の車
「・・・その調査、私にもさせてください」
斜め上の答えに目を丸くする安室さん。
それもそうだろうなあ、関わるなって言われているのに。
「・・・聞いてましたよね?」
真剣な顔は変わってなくて。
少しでも傍にいて調査ができるなら、安室さんが組織と関わりがあるかどうかも分かるかもしれない。
これまでの行動から、少なからず関係はあるものだとは思っているが。
「その上でのお願いです」
安室さんに負けじと真剣な眼差しを送る。まだ目には溢れ損ねた涙もいて。
暫くの間、無言で見つめ合った。・・・安室さんからは目が離せなかったのもあるが。
声には出さないけれど、お互い視線で訴えた。
数分は経っただろうか。安室さんが私の頬に添えていた手をゆっくり離し、小さくため息をついた。
「・・・分かりました」
おりないと思っていた許可に普通に驚いた。
「ほ、ほんとですか・・・?」
「ただし条件があります」
条件・・・その言葉に身構えた。
「今後ポアロに仕事で向かう時も含めて、逐一僕に行動をメールで知らせてください」
それは所謂監視で。余計なことはするな、という遠回しの圧力。
それでもいい。兄の本当のことを知れるなら。安室さんが組織と関係ないことを証明できるなら。
どんな形であれ、彼の・・・安室さんの力になれるのなら。
「分かりました、約束します」
私の言葉にまた少し驚いた表情を見せた。
「・・・ひなたさんって、意外と頑固なんですね」
そして呆れたように笑って。そんな笑顔も素敵だと思ってしまう自分は歪んでいるのだろうか。
「褒め言葉としてとらせてください」
「勿論」
さっきまでの恐怖や不安は少しだけ薄れていて。安室さんが少しいつもの安室さんに戻ってきていたこともあったが、恐らくだが上手く立ち回れたという安心感からもあった。
「・・・でも、今回のことは残念ながら見過ごせません」
少し不穏な空気にまた緊張感が戻ってくる。
「どこまで・・・何を聞かれました?」
それは先程のポルシェに仕掛けた盗聴器のことを指していて。やってしまった、見られてしまった行動についてはもうどうしようもない。
先程イヤホン越しに聞いた言葉の中で、安室さんに話しても大丈夫そうな内容を必死に探した。