第7章 黒の車
「お兄さんは交通事故で亡くなったと報告したハズですが」
冷たく言われた。
今安室さんはどんな顔をしているんだろう。とてもじゃないけど怖くて確認なんてできない。
「・・・まだ自分の中で・・・兄のことに疑問が残っていて・・・」
なんて言えばいい。これ以上は気持ちも言葉も取り繕えない。
いらないことを言ってしまう前に、もういっそここで殺してほしい。
「・・・疑問、ですか」
呆れたような声。それを聞くだけで胸が締め付けられて悲しくなる。
「それは僕の調査結果に対しての不服、と取ってよろしいですか?」
「ちが・・・っ!」
そうじゃない。
そう言いかけて思わず安室さんに顔を向けた。目に飛び込んできたのは悲しそうに笑う安室さんの姿。
思いもしなかったまさかの表情に目を見開いた。
「・・・すみません、不安にさせてしまいましたよね」
いつもの優しい安室さんの声で。
それを聞いて安心からか思わず涙が零れる。
「・・・違うんです・・・っ」
色んな感情がぐちゃぐちゃでどうして良いか分からない。どうしてこの人にこんな顔させてしまったんだろう。
「安室さんのことは信じてます・・・!でも・・・っ」
沖矢さんのことがすぐそこまで出かかった。言ってしまえば楽にはなるけれど。そうはできなくて。
「兄が・・・兄が近付くなと言っていたあの車と・・・最後に貰ったあの手紙に何か関係があるような気がしてきて・・・・・・」
それは素直に思っていたこと。きっとあの手紙は組織に潜入していた頃に書いていたものだろう。
その考えは言えないことだけれども。
「車を見た時には・・・体が勝手に動いてました・・・」
「・・・それについては僕も調べています。だから・・・」
安室さんの右手が私の左頬にゆっくり添えられる。ゾクッとする感覚に体が反応した。
「これ以上、このことには関わらないと約束してください」
安室さんの目は真っ直ぐ私を見つめていて。曇りのない綺麗な瞳。
捕えられたように離せないその瞳は何かのマジックのようだ。
「・・・約束できないと言ったら・・・?」
「どこかに閉じ込めておく他ないですね」
沖矢さんとのこともある。これ以上関わりたくない思いも少なからずあるが、そうはいかないだろう。
それなら、と口を開いた。