第59章 不見識
「あの・・・赤井さんの連絡先、教えてくれませんか」
「君の彼が怒るぞ」
「構いません」
バレない自信なんて無いけど。
彼には・・・まだ聞きたいことも、聞かなきゃいけないこともある。
「・・・残念だが、君はあくまでも民間人だ。教える事はできない。俺の女になると言うなら、考えてやらないこともないが」
「では、結構です」
冗談なのは分かっている。
でもそんな冗談に乗れるほど、今は余裕なんて無い。
彼や昴さんがどうして私にそんな事を言ってくるのかは知らないが、少なくとも赤井さんの言葉は本気で無いことくらいは、いくら鈍い私でも分かる。
「そう怒るな。俺に用があれば、沖矢昴かジョディに言ってくれ」
それを聞いてジョディさんに顔を向けると、彼女は優しい笑顔を返してくれた。
と同時に、そこまで昴さんと密に連絡を取っていたんだと改めて感じて。
「・・・分かりました」
それでも今よりは十分マシだ。
今まで会ってくれなかったことに対して、今は連絡を取れば会ってもらえる可能性があるのだから。
そうは思いながらも、少し不服の残る声色で返事をして。
窓が閉じられると、車は彼を残して走り出した。
「シュウは本当に貴女がお気に入りのようね」
病院を出て数分後、突然ジョディさんが呟くようにそう話して。
その言葉で瞬時に感じたのは罪悪感だった。
「あっ、あの・・・、私にその気はありませんから・・・っ」
ジョディさんが赤井さんに好意を寄せている事は、なんとなく察している。
その彼に目の前で、自分の女になれと別の女性に言っている姿を見せられれば・・・私だったらショックどころでは済まされない。
自分は関係の無い事だと慌てて弁解するが、そういうものは否定するほど怪しく見えてしまうもので。