第59章 不見識
「安室くんに飽きているなら、俺はどうだ」
何を、言っているんだろう。
呆れて言葉も出てこない。
私が零に・・・飽きている?
気持ちが不安定になっているのは確かだが、零が心底嫌っている彼を選ぶことなんて・・・有り得ない。
軽く向けていた視線を外し、反対側へと落とした。
「変な冗談はやめてください」
「誰が冗談だと言った」
ベッドがギシッと音を立てた事に気付いて視線を向け直すが、その瞬間にはもう天井へ向いていた。
そこには、赤井さんの姿も見えていて。
押し倒されたんだと気付いた時には体が固まっていた。
「最初は小生意気な女だと思っていたがな」
僅かに上げる口角に、睨みを効かせた表情を向けると、その笑みは濃くなって。
「君の母親から言われていた」
彼の手がスっと頬を滑った。
擽ったさと感じてはいけない感情によって、ピクっと肩が震えて。
「君を守ってほしい、と」
その表情に、また彼を重ねてしまった。
昴さんのような手付きに、表情に、言葉に。
そして、どうして・・・。
彼が昴さんだったら、なんて思ってしまったんだろう。
「・・・・・・ッ」
苦しい。
会いたい。
でも、今会いたいのは。
「私が守ってほしいのは、貴方ではありません・・・」
昴さんに会いたいだなんて。
こんな事、零が知ったら呆れられるだろうか。
もしかしたら嫌われるかもしれない。
でも、彼に会いたい理由は・・・零への気持ちと自分の感情をはっきりさせたいという思いからで。
それはきっと彼を利用している事になるんだろうが・・・もうそれでも構わないとすら思い始めていた。
「沖矢昴なら、良いのか?」
「!」
「そんな顔をしている」
どんな顔なのか、なんて尋ねることができるはずもなく。
いや、そもそも何故ここで彼の名前が出てくるのか。
零ではなく、昴さんの名前が。