第59章 不見識
「痛むか?」
「多少は・・・でもだいぶ良くなりました」
診察を部屋の隅で見届けていた赤井さんが、医者が部屋を出たタイミングで声を掛けてきて。
変えてもらったばかりの包帯部分に手を伸ばしながら、彼の問いに答えた。
「・・・会いたいと言わなくなったな」
ベッドのすぐ側に置いてある椅子へと腰を下ろすなりそう言われて。
言うなと圧力を掛けてきたのは彼なのに。
「会わせてくれるんですか?」
「会いたいのか?」
質問を質問で返されて。
その上その質問は、今の私にとって一番意地悪だと思えるものだった。
「・・・会いたいですよ」
でも。
「でも、会って彼が困ったら・・・傷付いたら・・・また何か危険な目に合わせてしまったら・・・」
そんな不安は山ほどある。
それなのに、こんな状態で会ってしまって良いのか。
思えば思うほど、答えはどこか遠くへと行ってしまう。
「そんな彼と居て楽しいか?」
「・・・!」
楽しいか。
そんな事、考えた事もなかった。
零とはずっと傍に居たいと思っていて。
一緒に居れば勿論楽しい。
だけどそれ以上に、迷惑も掛けてきた。
・・・それに。
「・・・私、は・・・」
彼とは一緒に居られるけど、一緒にはなれない存在。
安室透の恋人にはなれても、降谷零の恋人にはなれない。
「・・・・・・」
けど、零が私を傍に置いてくれるなら。
それでも良い。
・・・そう思っていたはずだった。
「分かりません・・・」
会えない期間が長くなり、自分の気持ちが不安定な状態も長く続いて。
また自分を保てなくなってきて。
「それに、赤井さんには関係ありません」
だから今は考えないようにしている。
そう間接的に伝えるように、赤井さんから視線を逸らした。
「関係無くはないな」
彼の言葉に、背けた顔はそのままで視線だけを軽くその方向へと向けた。