第59章 不見識
「・・・違います」
彼にも嘘をついた。
けど、罪悪感なんて微塵も無くて。
もう一度軽く彼の体を押して距離を取ろうとするが、ただでさえ力で敵うはずも無いのに、怪我で上手く力も入らない。
赤子の力同然のそれは、彼にとっては何の意味も成さなかった。
「頑固なのは母親譲りか」
懐かしむようにポツリと、そう呟かれて。
彼が母の事を知っているのは、正直羨ましく、悔しい。
私の母なのに、私よりもよく知っていて。
だけど私はそれすら知ることを許されない。
それ以外の事も詳しくはまだ教えてもらえない。
それでも良いと言ったのは私だし、実際そう思っていた。
・・・はずなのに。
「・・・零に会いたいんですが」
「それは無理だ」
会って今すぐ話をしたいのに。
その返事はとても早いもので。
私の状況を零達に、どのように伝えられているかは知らないが、とにかく無事だという事だけは伝えておいてほしい。
・・・まだ零が、私の事を心配してくれているのなら。
「公安には君の居場所や状況を伝えていない。勿論、君の彼にもな」
「どうして・・・っ」
赤井さんが、私の心の中を読んだように話を続けて。
確かに今、保護を任せているのはFBIだ。
居場所を知らせない事は何となく察するが、せめて状況だけは伝えておいてほしい。
そう思っているのに。
「知れば互いに良くない。今の安室くんはかなり我を忘れている」
零・・・が。
だったら尚更。
「どこへ行く」
「零に会いに行きます」
上手く力の入らない体を動かしベッドを下りようとして。
繋がれた点滴達は無理矢理外そうと手を掛けた瞬間、それは赤井さんの手によって止められた。
「諦めろ、今会えば彼を苦しめるだけだぞ」
「会わなくても苦しんでいるなら、会って話をしたいんです・・・っ」
今までもそうしてきた。
何度も話をして、傷付き、分かりあってきた。
きっと今回だって。