第59章 不見識
私のお願いに彼は黙って従ってくれて。
すぐ側のベッドの端へ腰を下ろすと、すかさず彼の腕を掴んで勢いよく引き寄せた。
「随分と大胆な性格だな」
限りなく互いの物理的距離は近い状態で。
彼の目からは視線を離さないまま言葉は無視し、腕を掴んでいた手を離すと、今度はその手をきっちり首元まで締め切っていたシャツへと伸ばした。
「・・・っ」
あの時、零が昴さんに確認したように。
今度は私が赤井さんに、アレの存在を確認する。
ゆっくりと一つだけボタンを外し、大きく一呼吸置いた。
黙ってそれを受け入れている彼に疑心が募る中、彼の首元を露わにさせた。
「・・・・・・!」
恐る恐るその首元へと視線を向けるが、そこには想像していた物は存在していなくて。
それに安堵している自分と、どこか落ち込んでいる自分も居た。
それが意味する事は・・・考えてはいけない気がした。
「それでお終いか?」
「・・・!」
クスクスと笑う彼に、今更妙な恥ずかしさが湧いてきて。
首元にやっていた手で彼の体を軽く突き押すと、サッと顔を背けた。
「・・・勘違いしないでください」
チョーカー型変声機が無いということは、彼は声を変えていないということだ。
昴さんもそれを付けているからといって、普段から声を変えている訳ではないと言っていた。
つまり。
彼は赤井秀一。
昴さんではない。
「これで勘違いするなとは、都合が良くないか?」
そう言いながら赤井さんは私の顎を掴み、無理矢理顔を向かい合わせられた。
「・・・っ、何す・・・」
「安心したか?」
鼻と鼻が触れ合うのでは、というくらい互いの顔は近くて。
それに驚いたのもあるが、それ以上に彼の問いに驚いた。
「安室くんと同じように、俺が沖矢昴ではないかと思ったんじゃないのか?」
「・・・・・・ッ」
改めて問われたその言葉に、それ以上声が出てこなくて。
息すらできているのか、分からなくなった。