第59章 不見識
「ずっと、君に会いたがっていた」
「私に?」
そもそも私は、両親に捨てられたんだと思っていた。
兄だけはずっと、そうじゃないと否定してくれていたが。
小さい頃は施設育ちという事が恥ずかしくて友達もおらず、施設の子ともあまり仲良くはできなかった。
だから本当に・・・家族と呼べたのは兄だけだった。
「・・・会わせてやれなかったのは、彼女にも君にも悪かったと思っている」
話を聞き進めれば進めるほど、母と赤井さんは同じ時間を長く過ごしていたように感じた。
「どうして母はFBIに・・・?」
「さあな、俺が入った頃にはもうFBIに入っていた。本人に聞いたことも無い」
赤井さんがいつからFBIに入っていたのかは知らないが、少なくともここ最近でないことは分かる。
それより前ということは・・・母はそれなりに長くFBIにいた事を察した。
・・・と同時に、気になることが一つ。
「あの・・・父は、FBIじゃなかったんですか・・・?」
FBI同士でのそういった事情はどうなのか知らないが、出会いとしてそういう場を考えるのが何となく自然だと思って。
「残念だが違う。すまないが、これ以上言うと君の彼が怒るからな」
少し笑いを含みながら話す彼に、零との仲が見えたようで。
そしてその姿が彼に似ていると、再び姿を重ねてしまって。
・・・沖矢昴・・・、に。
「・・・すみません、赤井さん。何も言わず、ちょっとこっちに来てくれませんか」
半ば意を決して言った言葉。
突拍子も無いことはよく分かっている。
でも、確かめて見たくて。
「君の彼が怒るぞ」
「良いから来てください」
確かにこんな事を言ったなんてバレたら、怒るだけでは済まされないだろう。
それでも私は、自分の予想が間違っている事を確信したかったのかもしれない。
彼が沖矢昴では無い、ということを。