第58章 こたえ
「さっきも言った通り、今君の保護はこちらが預かっている。あまり勝手な事はするなよ」
つまり、ここから逃げたりするな・・・と言いたいのだろうか。
それは正直保証しかねたが、そんな事は口に出せる訳もなく。
「・・・君ではなく、如月ひなたという、きちんとした名前があります」
彼の言葉には頷かず、半ば誤魔化すようにそう言い放った。
別に名前で呼んでほしい訳では無い。
彼に聞きたいことは沢山あるが、馴れ合うつもりは・・・。
「これは失礼した。では、ひなたさんでよろしいかな?」
「・・・!」
その言い方に聞き覚えがあるような気がして。
勢いよく彼へと視線を向けると、嘲笑うように私を見下ろしていて。
彼にあの小屋で聞きそびれていた事。
その時の引っ掛かりが・・・再び戻ってきた。
「お気に召さないか?」
「い、いえ・・・」
あの時は聞こうとしたのに。
何故か今は聞けなくて。
もしそれが真実なら・・・私はとんでもないことを、してしまった事になるから。
「そういえば、忘れ物だ」
そう言いながら赤井さんが胸ポケットから取り出したのは、あの時小屋で渡された二つ折りの写真入れで。
撃たれた直後も離したつもりは無かったが・・・。
ここへ連れて来る最中に、彼が預かってくれていたのかもしれないと悟ると、差し出されたそれをゆっくり受け取った。
「安室くんからは固く口止めされたから、もう聞かれても教えてやれんがな」
零に・・・?
そういえば零はどうして、そこまでしてこの事を隠すんだろう。
言う事が辛い・・・というのは分かっても、それだけではない気がして。
何か・・・隠されているんだろうか。
「母親のことくらいなら、多少彼も許すんじゃないか」
「・・・教えてくれるんですか?」
何だって良い。
今はどんな情報だって欲しい。
兄に直接関わらなくても。
・・・私に関わっていることなら。