第58章 こたえ
「しっかりしろ!」
違和感を感じる右肩に左手をやると、ヌルッとした感触を受けた。
何なのかと視線を向けると、その手は血で真っ赤に染まっていて。
その時にやっと気が付く事ができた。
ああ、そうか。
私が撃たれたのか、と。
「ひなた・・・!?」
零の声・・・。
その声の直後に、もう一度銃声が聞こえて。
ただ、今度は私のすぐ側から。
それから察するに、撃ったのは赤井さんなんだと気付いて。
「それ以上は来ないでいただこうか」
そう言い放つなり、私の体は彼の手によってふわりと浮いた。
全身に力が入らない。
何故か呼吸をするのも苦しくて。
段々と、目を開けているのも辛くなった。
どこかに歩いている。
体の感覚でその事は分かったが、五感は段々と確実に鈍ってきていて。
「赤井・・・ッ!!」
「一度、冷静になったらどうだ。安室くん」
その言葉と同時に赤井さんの歩みが止まって。
零の声が・・・近くに聞こえる。
すぐ側に・・・居るんだ・・・。
「今の君では、彼女を守れない」
「・・・ッ!」
それを最後に、赤井さんは止めていた足を再び動かした。
待って・・・。
零と、話をさせて・・・。
・・・零の傍に・・・いさせて。
そう言いたかったのに。
声は出なくて。
段々、肩の痛みはハッキリとしたものへと変わっていった。
「・・・・・・っ」
声にならない声が喉の奥に詰まって。
意識が何度も遠くに行きかけたのを引き戻した。
「赤井さん!?どうしたんです!?」
車・・・だろうか。
恐らくそれに乗せられたんだと感じて。
「キャメル、すぐに車を出せ」
「は、はい!」
赤井さんの言葉を切っ掛けに、車は大きく揺れながら山道を走り出した。
揺れる度に痛みが襲い、汗が吹き出した。
それでも、頭の中は零の事でいっぱいで。
せっかく会えたのに・・・。
話もできないまま・・・また離れてしまう・・・。
何度も頭の中で彼の名前を呼んで。
飛ばさないようにしていた意識は、その途中で途切れてしまった。