第58章 こたえ
「・・・その真実を、君が知る必要は無いさ」
ポケットからやっと手を出したと思ったら、いつの間にかその手にはタバコがあって。
手馴れた様子で火を付けると、その煙を大きくさせた。
「私には関係ないから、ですか?」
「まあ、そんなところだ」
何となく彼らしいと思った。
赤井秀一の事なんて他人からの情報でしか知らないのに。
きちんと対面して話すのは、初めてなのに。
何故かずっと・・・初めてでは無い気がして。
「・・・あの。変な事、聞いていいですか」
煙草をくゆらせる彼に、ゆっくりと近付きながらそう問い掛けて。
「答えられる質問であれば良いがな」
そう答える彼の口角が少しだけ上がった気がした。
一歩一歩、彼へと近付く度に心拍数が上がる。
それが緊張なのか、別のものなのかは分からないけれど。
「赤井さんって・・・もしかして・・・」
重い口を動かしながらそこまで言った瞬間、お互い周囲に起こった異変に気が付いて。
誰かの足音が近付いてくる。
ガサガサと木々を掻き分ける音は段々と近くなって。
思わずその方向へ視線が釘付けになった。
嫌な予感がする。
私のその予感はいつも当たってしまうもので。
自分の心臓の音が聞こえて来そうな程、鼓動は大きくなっていた。
・・・音はもう目の前。
その主が姿を現した瞬間、時が止まってしまったように感じた。
「・・・零・・・!?」
息を切らしながら小屋の前に現れたのは、どこか焦るような表情をした彼だった。
「ひなた・・・」
零を見て驚きはしたものの、安心した。
それは零も同じだったようで。
けれど、それ以上に私は焦っていた。
赤井秀一と一緒に居る所を見られたのは、かなりマズい気がする。
もし私がここに居ることを、FBIが零に伝えたのであれば。
赤井秀一がここに居ることも、零へ同時に伝えていた可能性が高い。
しかし零は、私の背後にいる赤井秀一の存在に気が付いた瞬間、その表情を一変させた。
それを見て、私の予想が的中している可能性は、ほぼ無い事を悟った。