第58章 こたえ
「この先よ」
ようやく目的地に近付いた事を認識すると、少し安堵の気持ちが湧いてきて。
ただ、これから会う人物に対しての緊張は、和らぐことは無かった。
ジョディさんの言葉から数分後、車を止められたのはさっきと景色は何ら変わらない森の中で。
「えっと・・・ここ、ですか?」
「ええ。正確にはこの先なんだけど、車ではいけないから・・・悪いけど歩いて行ってもらえるかしら?」
この先・・・と言っても、景色は変わり映えしそうにはないが。
戸惑いつつもシートベルトを外し、ドアハンドルへと手を掛けて。
「場所は、行けば分かるから」
車を降りる直前、彼女にそう付け加えられて。
「分かりました、ありがとうございます」
そうお礼を告げる一瞬、目に入った彼女の表情が少しだけ曇って見えたのは・・・気のせいだったのだろうか。
気にはなったが、それ以上確認することも、そんな余裕も無かったから。
焦る気持ちそのままに車のドアを閉めると、ジョディさんの示した方向へと、足早に進んだ。
道無き道を進んで行くと、視線の先にはポツンと建つ廃墟のような小さな建物があって。
森の中には似つかわしくない、錆れたトタンでできた小屋にも見えた。
恐らくこれなんだろうと直感で思ったが、入るにはそこそこの勇気を必要とする見た目だった。
もう、昴さんが合わせたいという人はここにいるんだろうか。
上がっていく心拍数を抑えるように、深呼吸をしてその小屋へと近付くと、入口らしきドアを見つけて。
どうしてこんな所に呼び出したのだろうかと疑問を抱きながらも、そのドアの取手へと手を掛けた。
「・・・お邪魔、します・・・」
恐る恐るドアを開きながらゆっくり顔を覗かせて。
窓のない部屋は薄暗く、空気の入れ替えがされていないせいか、埃っぽさが部屋を満たしていた。
「君のお兄さんとやらが、使っていた部屋だ」
「!」
注意の逸れていた背後から、突然そう声を掛けられて。
ただその声には、聞き覚えがあった。