第58章 こたえ
「私はその人に、何の為に会うんですか」
「何の為かは、会ってみれば分かりますよ」
やはりいつも通り、ハッキリとは教えてくれない。
零でない事は確か、なんだろうけど。
そう考えている中、突然インターホンの音が私達の注意を引いて。
「おや、早いですね。迎えが来たようですよ」
言いながら昴さんは廊下へと続くドアを開き、玄関の方へと私を促した。
不安を含んだ視線を彼に向けると、大丈夫と説得させるような笑顔を返されて。
それに安心させられたことに、また悔しくなって。
足早に、逃げるようにその部屋を去った。
昴さんが居ない事がこんなに不安に思うなんて。
着いてきてほしいと思うなんて。
零に言えない気持ちばかり増えていく。
真っ直ぐ玄関へと向かいゆっくりとそのドアを開けると、そこには見覚えのある人が立っていて。
「ハァイ」
「ジョディさん・・・?」
手の平を見せながら指をヒラヒラとさせ、いかにも外人らしい挨拶をしてみせる彼女を見た瞬間、昴さんの合わせたいと言っていた人が何となく分かった気がして。
「さ、行きましょう」
有無を言わさず私の手を引き、門の目の前に止めてある車の方へと連れて行かれた。
そのまま助手席へと乗り込んでシートベルトを締めると、急ぐように車は発車された。
暫くの間、車内は無言で。
お互いが口を開くのを待っていたのかもしれない。
けれど、互いに話し掛けてはいけない雰囲気も・・・出ていたかもしれない。
「・・・本当に良いのかしら?」
先にその沈黙を破ったのはジョディさんだった。
突然の問いに、運転する彼女へ視線を向けながら何の事かと首を傾げて。
「証人保護プログラム。あの男から話は大体聞いているけど・・・本当に良いの?」
ああ、その事か、と心の中で納得しながら視線を足元へと戻した。
「まだその時は来ていませんけど・・・来たらいつでも受けられるように、しておいてくれませんか」
それが私なりの覚悟だから。