第58章 こたえ
零の口から真実を聞きたいとは言いつつも、早く知って楽になりたいという思いも少なからずあって。
でもそれは自分の中で言ってはならない言葉と決め付けて、必死に押さえ込んでいた。
「知りたくありませんか?」
悪魔のような囁きが、私の中の欲望を掻き立てた。
知りたい。
けれど、零以外の人の口から知ってしまうのはいけない事のような気もする。
自分の中での葛藤が、自分を壊していくようだった。
「まあ、気になるようなら本人に聞いてみてください」
そう言いながら昴さんはソファーから立ち上がり、廊下へと続くドアへと向かって。
「朝食を準備してきます。食べたら出掛けますので、準備をしておいてくださいね」
閉められたドアを暫くの間、呆然と見つめて。
どうするべきなのか分からない。
そもそも、その人と会っても良いものなのだろうか。
昴さんの知り合いなのだから、悪い人では無いと思う・・・が。
迷いは晴れないままゲストルームへと向かい、彼の言葉通りになってしまった、着替えを仕舞っているクローゼットを開いた。
適当に着替えを済ませてキッチンへ向かうと、既に殆どの準備が済んでいて。
「コーヒー、入れて頂けますか?」
昴さんにそう言われ、何故か心臓がドキッと音を立てた。
もう彼に入れることは無いと思っていたのに。
それが寂しいと思っていたのに。
もう一度彼にコーヒーを入れることが、僅かながら嬉しいと思ってしまったなんて。
口が裂けても、言えない。
ーーー
「準備はよろしいですか?」
「・・・はい」
それは心の、という事だろうかと思いながら首を縦に動かして。
「では、迎えを呼びますので五分程お待ち頂けますか」
「昴さん、行かれないんですか?」
彼の知り合いだから、てっきり彼がついてくるものだと思っていたから。
「ええ、僕は私用がありますので」
その返答は少しの不安を生んだ。