第57章 再びの
「僕はいつまででも待ちますよ」
いくら待っても無駄なのに。
その時はそう思っていた。
少し名残惜しさを感じながら触れていた肌を離されると、彼はそのまま私のすぐ側へと腰掛けた。
「貴女を守る義務がありますから」
約束には忠実なんだな、と彼の妙な律儀さを再認識していると、彼の手が頬を滑り包まれると、向き合うように顔を動かされて。
されることは分かっていた。
拒む事もできた。
でもそれを私は。
「・・・っん、う・・・」
自分の意思で受け入れた。
ーーー
ふと目を覚ますと、そこは見覚えのあるベッドの上で。
以前借りていたゲストルームだと気付くのに、そこまで時間は必要としなかった。
体を起こし辺りを見回すと、真っ暗な部屋は孤独を強め、その闇の中へ投げ出されたような感覚に陥った。
「・・・昴、さん・・・」
思わず呼んだのは彼の名前で。
意味なんて無い。
ただ自然と漏れただけ。
姿なんて現すはずないのに・・・。
「呼びましたか?」
「!」
部屋の隅の方から声がして。
足音が月明かりの方へ近付くと、その姿はぼんやりと照らされた。
「ど、どうして・・・」
「貴女が呼んだのではありませんか」
クスクスと笑いながらベッドへと腰掛けると、ギシッと音を立てながらそれは沈み込んだ。
「何かご用ですか?」
・・・どうして。
「・・・・・・っ」
どうして。
「すばる、さ・・・」
どうしていつも。
「はい」
傍に居て欲しい時に居るのは、貴方なの。
「ここに・・・居てください・・・っ」
彼の腕に縋り付くように、頭を押し付け服を掴んで。
「ええ、ずっと居ますよ」
その声が優しくて。
それが悔しくて。
包まれた腕が心地良いと思ったのは錯覚だろうか。
これは利用だろうか。
それとも、彼を選んだ事になるんだろうか。
いずれにせよ、零に言えない事は確かで。
それが良い事とは・・・言えないはずで。