第7章 黒の車
『俺の前でそいつの名前を出すなと言わなかったか』
『す、すいやせん・・・』
話の流れは全く理解できないけれど、一人がウォッカと呼ばれている辺り、どうやらバーボンとは誰かの名前のようだ。
『アイツは組織の中でも怪しいやつだ』
はっきりと聞こえた。
組織という言葉。
やはり彼らは組織の一員なのか。
そう考えていた矢先、盗聴器の音が段々と小さくなっていって。
こんな時に・・・と、心の中で舌打ちをしながら、危険を承知でもう少し近付く決心をした。
背中はコンテナにつけ、視線はポルシェを捕らえたまま、ゆっくり体を進めようとした・・・瞬間だった。
「・・・ッ!!」
いきなり肩を掴まれ、体を壁に押し当てられたと同時に、手で口を塞がれて。反射的に目は固く瞑ってしまった。
ヤバい・・・油断した。
完全に意識を組織の人間に集中させてしまっていた。
今更そう後悔しても既に遅くて。
一気に体に力が入り、震えが止まらない。
瞬時に死を覚悟した。
せめてもの抵抗で、口を塞がれている手を剥がそうと、それに手をかけた瞬間だった。
「・・・静かに」
イヤホンをしていない方の耳元で囁かれる聞き覚えのある声。
「・・・・・・っ!」
驚いて目を開いて見上げるとそこには安室さんがいて。
どうして、ここに。
そう目で訴えた。
でも目の前にいるのはいつもの優しい安室さんじゃなくて。
冷たい目。
それにそこはかとない恐怖を感じた。
口を塞ぐ手は離さず、彼は私の耳につけたままだったイヤホンを外し、自身の耳につけた。その手を止めたかったが、目に見えない威圧感がそれを許さなくて。
暫くそのままイヤホンから流れてくる声を聞いた後、少し驚いたように私を見た。
「・・・これは貴女が作ったものですか?」
限りなく小さな声で安室さんが尋ねた。それに対して少し迷ったが小さく頷いて。
どうして・・・作ったと思ったのだろう。
持っていたスマホも取り上げられ、暫く操作された。ただそれを黙って見つめるしかなくて。
これで安室さんが組織の人間であれば、私は恐らく生きては帰れないだろう。
でも安室さんに殺されるならそれはそれで本望かもしれない。
そう思うと震えも恐怖も抑えられた。