第7章 黒の車
「あの、道を指示するのでその通りに行ってもらえますか」
捕まえたタクシーに乗り込むなり、運転手へそう伝えて。
ポルシェに乗り込んだのは長身長髪の男と、体格が良く、サングラスをかけた男だった。
乗ったことを確認すると、全神経を耳に集中させた。
『・・・・・・た・・・ぜ、・・・にき・・・』
上手く音が拾えない。やはり少しでも試しに使っておくべきだったと今更後悔して。
自分でもこんな風に使う日がくるなんて思いもしていなかったが。
暫くすると、ポルシェはゆっくりと発進して。
「すみません、暫く真っ直ぐ行ってください」
車が動いたことを確認して運転手へ指示を出す。
発信機は問題なく動いている。それに少し救われた思いで、スマホを見つめた。
「・・・次の信号を右にお願いします」
あまり近付き過ぎては怪しまれる。そう思い、たまに道を外れては後ろへ回り込む形で追いかけた。
あれから数十分車を走らせた後、少し先の廃工場で車を止めたようだった。
「すみません、ここで降ります。お釣りはいりません」
言われた金額より少し多めに渡し、急いで車を降りた。彼らが車を止めたのは数百メートル先。結局車からはこれといった言葉は聞こえなくて。
この辺りのはずだが、とスマホを確認しながら歩みを進めていると、積み上げられたコンテナの横に停車しているポルシェを見つけて。
それを確認すると、近くのコンテナに隠れる形で背中を貼り付けた。
息が苦しい。
冷や汗も止まらない。
それでも、引き返す選択は無くて。
ゆっくりと顔を覗かせて車を確認する。
男達はまだ車内にいるようだった。
『・・・この後始末はどうしますか、兄貴』
突然耳を駆け抜ける男の声。先程の男のどちらかのものだろうか。
はっきり聞こえた声に、緊張が一気に高まって。
『俺の知ったことか。あとはアイツらにでも任せておけ』
もう一人の男の声。声だけで分かる。
この人は関わってはいけない人だ。
そう本能で判断した途端に体が震えてくる。
『そういや、バーボンのヤツ最近顔を出しませんね』
バーボン・・・?お酒・・・?
スマホを持つ手は緩めず、もう一方の手はイヤホンをつける耳に当てて。
『・・・ウォッカ』
またお酒の名前。
そして、先程とは全く雰囲気の違う凄んだ声に、イヤホン越しからでも恐怖が伝わってくる。