第57章 再びの
ここに居るはずなのに、その気配は無い。
探しているのは、零ではなく昴さんなのに。
どうしてこんなに不安になっているんだろう。
「すば・・・さ・・・っ」
上手く声が出ない。
呼吸が浅くなっていく。
苦しい。
心も、体も。
「・・・ひなたさん?」
突然背後から声がして。
慌てて振り向くと、そこにはキョトンとした様子の彼が立っていた。
その姿が見えた瞬間、恐怖の糸が切れたと同時に気も抜けて。
気付いた時には、彼の体へと縋り付いていた。
「すばる、さん・・・っ」
出なかった声はいとも簡単に吐けて。
彼の胸元へと顔を埋め込み、存在を確かめるように服をギュッと握り締めた。
「お風呂を見てきただけです」
何も問わず、ただ背中をさすってくれて。
こういう彼の優しさが、やっぱり憎いけど憎みきれないところなんだと再び思った。
「入られますか?準備はできていますよ」
その問いには小さく頷きを返して。
お風呂場までは目の前だから。
上手く力の入らない体を動かしながらそこへと向かって。
ついて来るのを私が嫌がると、昴さんが分かっていたのかどうかは知らないが、結果ついて来られなかったのはありがたかった。
必要以上の優しさは無い。
彼に恋愛感情の無い私にとっては楽な物で。
これは彼を頼っていると言えるのだろうか。
そう思うと、楽な感情の中にも小さな罪悪感が生まれるようだった。
ーーー
お風呂を上がっていつもの部屋へと向かうと、昴さんはソファーへと腰掛けて何かの本を読んでいた。
「・・・何読んでるんですか?」
「ああ、この家の書斎にあったミステリー小説ですよ」
本をパタンと閉じると表紙をチラリと見せてくれて。
見覚えのない小説だが、マニアックな部類の物だろうか。
あまり興味の無さそうな表情になってしまったのか、彼は私の反応を見るなりクスッと笑うと、その本を机へとそっと置いた。