第57章 再びの
「知りたくはないのですか」
そんなはずない。
今私が一番知りたいのは兄の事なんだから。
でも。
「・・・透さんが話してくれるまでは、待ちます」
彼の口から、ちゃんと聞きたいから。
「相変わらず、頑固ですね」
そう言われた言葉は、いつもなら知ったような口振りに苛立ちを覚えていたかもしれない。
けれど今は何故か、この会話が心地よいとすら思えて。
何故かは分からないが、ザワついている心が落ち着いていくようだった。
「・・・あの」
「はい」
それは山ほどある疑問の中の一つ。
「昴さん・・・本当は何者なんですか」
そんな事を聞いても、返ってくる答えなんて決まっているのに。
「ただの大学院生ですよ」
答えは予想通りで。
寧ろ、その答えを求めていたのかもしれない。
彼がFBIでないのかという疑問は残っているし、本当は赤井秀一ではないかという疑いも残っている。
それでも、これも彼の口から聞くまでは・・・彼の言葉通りの人間だと思うことにした。
ーーー
その日の夕食を食べ終え、一人ソファーへと腰掛けて。
一日が長い。
この三日間、零のいない時間はとにかく過ぎるのが遅かった。
あの少し手狭な部屋も、一人だと妙に広く感じて。
一人だとご飯の味もしなかった。
声が聞きたいと思いながらも、それは叶わなくて。
素直にそうメールを打つことすらできずにいた。
考えるのは零の事ばかり。
この三日間で、孤独へは恐怖に似た感情も覚えた。
でも今は、昴さんが・・・。
「・・・昴さん?」
さっきまで近くにいたはずの彼の姿が見当たらず、辺りをキョロキョロと見回すが、その姿は捕らえることができなくて。
そこはかとない恐怖が、体を蝕んでいった。
「昴さん・・・っ」
ソファーから立ち上がり、廊下へと出て。
キッチンだろうかと走って向かうが、そこにも姿は無かった。
その現実に、恐怖で手足に震えが走ってきて。