第57章 再びの
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工藤邸に着くと、昴さんは私から離れることはなく、玄関までぴったりとくっ付いてきた。
いつもの部屋へと入り、ソファーへ座るまで。
いつもなら嫌がって跳ね除けているところだが、今は誰にも迷惑を掛けたくない。
そんな思いからか、何も言わず大人しくそれを受け入れた。
ジョディさんへの連絡は昴さんからしてくれると言ってくれて。
今すぐそれを受ける訳ではないが、いつでも受けることができるように、準備だけはしておいてほしい、と。
「本当に彼の事が好きなんですね」
「好きなんて言葉で片付けないでください」
零は私にとって無くてはならない存在だ。
彼が居なくなることがあれば私は・・・。
「その割には、離れようとするんですね」
「・・・っ」
言い返せなかった。
そう、だ。
私はいつも零から逃げている。
彼を好きだと言っておきながら、バーボンの片鱗が見えた時には怯えて。
一緒に居ると迷惑が掛かると彼を怒らせて。
自分を責めるなと言われたのに責めてしまって。
今も零の言葉を聞かずに、勝手に昴さんについてきてしまった。
でも今の判断は、間違っていないと思っている。
「・・・透さんの為です」
「本当に彼の為になっていれば良いですね」
挑発するような物言いに、思わず彼へと視線を向けた。
いつもの笑顔は崩れていない。
けれど、僅かな威圧感はある。
彼の言葉が、心臓を突き破るように刺さって取れない。
ついさっき、間違っていないと思った判断は、間違っていたのだろうか・・・といつもの意思の弱さが滲み出てきて。
「まあ、今は彼らからの連絡待ちとしましょう」
紅茶を入れて来ます、と部屋を去ろうとする昴さんの背中を見つめて。
その瞬間、一人になるのが怖くなって。
得体のしれない恐怖が身体中を包んだ。
私はどうしていつも・・・目に見えない物に怯えてしまうんだろう。