第56章 それは
「・・・今だけはFBIの指示に従います」
『如月さん!』
そう、あくまでも今だけ。
これがどういう結果に転ぶのかは分からないが、少なくとも公安の保護を受けるよりは良いはずだ。
『降谷さんに顔向けできません・・・っ』
「零には私から話しますから」
それがいつになるかは、分からないけど。
『如月さ・・・っ』
風見さんが呼び掛ける中、終話ボタンを押した。
きっとまた掛かってくるはず。
でもそれに出ることは無いから。
スマホの電源を落としたのを確認すると、昴さんへと向き直って。
「お待たせしました」
「では、行きましょうか」
顔色一つ変えない彼は、ある意味残酷でもあり、ある意味優しさも感じた。
そんな彼とまだ協力体制を取れているのは、それが楽だと思えているからなのかもしれない。
そんな事を考えながら階段を降りて。
車に乗り込むと、すぐにその車は工藤邸へと出発した。
「・・・一つ聞きたいんですが」
「なんでしょうか」
一つどころか聞きたいことは山ほどあるけれど。
とりあえず一番の疑問というより、解決しておきたい不安があって。
「私がFBIの保護を受ければ、零への危険は減るんですよね・・・?」
私が勝手にそう判断しただけだから。
彼のそうだという言葉が欲しかった。
「危険な状態は変わりませんが、今は傍にいない方が良いでしょうね。最悪の結果にならないとも限りませんし」
・・・そうだった、この人は言葉を選ばない人だ。
安心を得るために問いかけた言葉は、ただただ不安しか生まなくて。
こういう時に何も出来ない自分が・・・不甲斐ない。
「まあ、彼なら大丈夫ですよ。幸いバーボンに疑いの目を付けているのは、ベルモットだけのようですし」
その名前を聞く度、本当にこの人は組織の事へ首を突っ込んでいるんだと実感させられる。
その理由が分からないのは・・・今となっては彼だけとなってしまった。